2013年7月24日水曜日

アメリカの友人たちの近況~サン・アントニオ

「抵抗する勇気」ツアー(2009年)で、日本にやってきたジル・ジョンストンさんから、テキサス州サンアントニオの旧ケリー空軍基地周辺に暮らし、基地被害に苦しむ友人たちの近況(記事の紹介)が届きました。「アメリカばんざい」(2008年)、「アメリカ-戦争する国の人びと」(2010年)のEpisode4:先住民に登場する人たちです。以下、日本語に仮訳

(原文は以下の”Truth Out”のサイトをご覧ください)
"Toxic Triangle" Residents Refuse to Go Quietly on Anniversary of Kelly Closure


トキシック・トライアングル(有毒三角地)
住民らケリー空軍基地閉鎖記念日に静かに抵抗
2013722日 グレッグ・ハーマン(Speak Out/レポーター)

ビクター・サンミゲル
「アメリカばんざい」より
米国内最悪の汚染地域のひとつ、ポート・サンアントニオ(旧ケリー空軍基地)の入口で、ビクター・サンミゲルは、誇り高く、不服従の意思を示した。革のライダージャケットに、戦闘的チカーノ(メキシコ系住民)のエンブレム、刺青、濃いサングラスといういでたちは、何事にも動じない強さを感じさせる。しかし、土曜日、ケリー空軍基地閉鎖12周年のために集まった人々を前に話しながら、ビクター・サンミゲルがサングラスの向こう側に流した涙は、深い苦しみを表していた。
「私の住む一角には13軒の家があるか、そのうち11件の家にはがんで死んだ人かがんで死にかけている人がいる」と彼は言う。「がんで死ぬ人が多すぎる」
軍事基地の改変と経済開発が進められる中、ケリーの過去の汚染についてメディアで触れられることも少なくなった。しかし、住民たちは、納得などしていない。社会的公正を求め、声をあげ続けている。
713()に集まった人びとは、健康被害をもたらした汚染が、今も浄化されずにある場所に、問題の多いエネルギー関連事業が拡大することに異議を唱えた。
トラックが通る。(シェールガス採掘の)水圧破砕用の砂が積まれている、ここから近隣の郡に運ばれるのだと抗議者の一人が言った。抗議者たちは“水圧破砕はやめろ”と声をあげた。一人の女性は、プラカードを掲げた。そこにはシンプルに「有毒トラック、注意」と書かれていた。
*訳注)シェールガスは、地下3000メートルほどの井戸を掘り、ガスが閉じ込められている硬いシェール層に高圧水で割れ目を入れ(水圧破砕)、採掘。破砕後は0.5%~2%ほどの砂粒状の物質と化学薬剤を混ぜた大量の水を注入するが、この薬剤にはベンゼンやメタン、プロパンなどの発がん物質や、有害物質が含まれている。シェールガス革命の光と影(片瀬ケイ)に詳しい。
711日、木曜日、メキシコ当局者のグループは、サンアントニオで開催された毎年恒例の姉妹都市国際会議の一環として、"1,900エーカーのマスタープラン/航空宇宙産業・産業団地・国際物流プラットフォーム"として宣伝されているポート・サンアントニオを見学した。
ポート・サンアントニオの外国貿易指定ゾーンは、NAFTA(北米自由貿易協定)志向の国際的な企業に利益をもたらし、輸送や航空分野にわたるメーカーをひきつけている。しかし、ここでの最大の雇用者は、依然として、米空軍と米国防総省だ。
ノースカロライナ州のキャンプ・レジューンで起きたように、ここでも、過去数十年にわたり、軍が投棄したトリクロロエチレン(TCE)、テトラクロロエチレン(PCE)、発がん性ベンゼンなどの有害化学物質が、地下水を汚染した。どちらの基地の場合も、有毒汚染水は、基地の敷地内に留まらなかった。ケリーでは、近隣の数万戸の労働者の住宅の地下に広がり、とりわけ基地に隣接するメキシコ系住民の地区が激しく汚染された。住民たちは、汚染された滞水層からの井戸水で、庭や果樹に水をやり、車を洗った。サンアントニオの水文学者、ジョージ·ライスが数年前に報告しているように、子どもたちは、”子どもが使うようにホースを使った“、すなわち、水遊びをした。
環境と健康問題に取り組むNPOCommonwealSteve Lernerの報告によれば、空軍は、最終的に、ケリー周辺にある70以上の井戸を閉鎖した。
レジューン基地のことは、ドキュメンタリー映画「SemperFi: Always Faithful」にもなり、PBSや様々な場所で放映された。レジューン基地は、スーパーファンドサイトとされ、昨年、オバマ大統領が署名した“アメリカ退役軍人を称えレジューン基地家族を援護する2012年法”により、健康被害に対して医療保障が受けられる。が、ケリーに同様の措置はない。

*訳注)スーパーファンドとは、有害廃棄物がある土地を浄化するためのアメリカ連邦政府のプログラム。米国で1978年に起きた「ラブキャナル事件」を契機に制定した「包括的環境対策・補償・責任法(CERCLA)」(1980)と「スーパーファンド修正および再授権法(SARA)」(1986)の2つの法律を合わせて、スーパーファンド法と呼ぶ。有害廃棄物がある土地のことをスーパーファンドサイトという。汚染の調査や浄化は米国環境保護庁が行い、汚染責任者を特定するまでの間、浄化費用は石油税などで創設した信託基金(スーパーファンド)から支出する。浄化の費用負担を有害物質に関与した全ての潜在的責任当事者が負うという責任範囲の広範さが特徴的で、現在の施設所有・管理者だけでなく、有害物質が処分された当時の所有・管理者、有害物質の発生者、有害物質の輸送業者や融資金融機関を含む。

テキサス州の当局者は、スーパーファンドサイトのリストにあげられることに強く抵抗したが、EPA(連邦環境保護局)は、ケリーは“放棄された場所ではない。実質的にすべてのスーパーファンドサイト認定地がそうである”として拒否。そして“リストにあげられることにより、地域住民は法律や科学の専門家を雇うため助成金を申請したり、浄化方法について意見を述べたりすることが出来るようになる”とした。
地域住民らは、原状回復諮問委員会に招待されたが、方針を決め、準備された優先順位を変える何の権限もなかった。昨年、空軍がこの諮問委員会を解散することも止められなかった。
空軍不動産庁の報道官、リンダ・ガイシンガーは、サンアントニオ・カレントの前記者、ミカエル・バラハスに対し、昨年10月、「これらの主要な問題については、すべて結論が出ています。これ以上、何か諮問すべきことがあるでしょうか?」と語った。
サウス・ウェスト・ワーカーズ・ユニオンSWU)のオルガナイザー、ディアナ・ロペスは、旧ケリー基地の西の境界線であるレオン・クリークで、毎夏、泳いでいたという。どれほど多くの化学物質で水が汚染されているのかを知るまで、そうしていた。
SWUのインターンとして、自身の暮らす地域の健康調査に参加し、ガンや小児糖尿病、発育障害などの訴えを聞く中で、家族の恒例行事を続けてはいけないと決心するにいたった。”つらい決心でした。ちょうど、私が空軍に入ることをやめて、SWUで働こうと決心した時期でもあります“。
ディアナ・ロペス
「アメリカ-戦争する国の人びと」より
連邦保健省の魚介類の消費に関する勧告(2010年)は、レオン・クリークの魚は、PCB類と有機塩素系農薬に高濃度で汚染されていると警告した。保健省の報告は、「妊婦、今後妊娠する可能性のある女性、子育て中の女性、12歳以下か34キロ以下の子供、出産時期を過ぎた女性、成人男子は、ロドリゲス公園より下流のレオン・クリークの魚を一切、消費するべきではない」としている。
旧ケリー空軍基地の周りに暮らす人たちの間に、肺がんや先天性異常が高率で発生していることには、議論の余地がない。金属部品の洗浄に使われた透明な溶剤、TCE(トリクロロエチレン)に曝された結果だということが知られている。しかし、がんの多発について調査した自治体や連邦政府のどの機関も、地下の滞水層から、有害物質がどのような経路をたどって、住民の体に至ったか確認できていない(米軍が井戸を封鎖するのに忙しかった当時から、疫学的調査は行われていない)。
EPAは2000年に、TCEの健康へのリスク評価を従来より高め、「人体に対する、肝臓、腎臓、免疫、内分泌、発育への影響が報告されている」としている。最近の疫学的研究・分析では、人間のいくつかのがん、とりわけ腎臓、肝臓、子宮頚部、リンパ系のがんは、TCEへの曝露と関連があることが報告されている。
地域住民らが起こした訴訟に対し、2010年、連邦政府は100万ドルで和解した。弁護士費用や訴訟費用を差し引いくと、395人の住民が手にしたのは52万ドル、一人当たり1300ドルとサンアントニオ・エクスプレス・ニュースが伝えている。一方、前述のレジューン基地の数百人の住民らは、40億ドル近い損害賠償を連邦政府に要求している。
ポート・サンアントニオの前に集まった人びとが求めているのは、お金よりも、まず、健康被害の原因が、軍による汚染であるという公式な認定だ。公式認定と、住民の健康と社会的公正を中心に置く経済開発を求めている。政府の和解内容には、汚染と住民の健康被害に関して、何の言及もない。現在までに2.5億ドルが浄化のために使われたが、浄化作業が完了するのは最も早くて2041年だという。
ディアナ・ロペスは「問題は何も変わっていない」と言う。「彼らはここの開発を続けています。新規のビジネスを持ち込み、持ち込まれるトラックや列車、飛行機の数も増え続けています。でも、汚染は続いていますし、浄化もされていません。十分な診療所もありませんし、地域への十分な支援もありません」
「私も甲状腺がんと診断された」というビクター・サンミゲルは、「長くは生きられないだろう。でも、みな闘い続けてくれると分かれば、安心して逝ける。皆に、神のご加護を。ケリー基地は地獄へ落ちろ」

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